日中はまだまだ暑い日が続いていますが、朝晩は過ごしやすくなってきました。
秋の訪れを感じる季節ですね。
薬学部6年生の学生さんは、来年2月の薬剤師国家試験に向けて猛勉強の最中と思います。
私も薬剤師になって数年経ちますが、いざ医療の現場に出ると、国家試験のために勉強した内容と現場で必要となる知識にギャップがあるように感じられました。
今回は私が実際に感じた国家試験と現場のギャップについて、いくつか紹介させていただきます。
早速ですが、まずは国家試験の過去問をご覧ください(回答は以下に続きます)。
【102回薬剤師国家試験】 問30 GABAトランスアミナーゼを阻害し、抗てんかん作用を示すのはどれか。1つ選べ。 1. ガバペンチン 2. エトスクシミド 3. ジアゼパム 4. ゾニサミド 5. バルプロ酸 |
【93回薬剤師国家試験】 問126(一部改題) 以下の文章の正誤について答えよ。 バルプロ酸は、GABAトランスアミナーゼ阻害作用があり、全般発作に有効である。 1. 正 2. 誤 |
バルプロ酸は、てんかん全般発作の第一選択薬…だけじゃない!
【102回】問30 正答:5 【93回】問126(改) 正答:1
いかがでしたでしょうか?
国家試験では、バルプロ酸はGABA (アミノ酸の一種)の分解抑制作用を持ち、てんかんの全般発作に対する第一選択薬としての知識が問われることがあります。もちろん非常に大切な知識ですが、実際現場に出ると、バルプロ酸が片頭痛の治療薬として使われることも多く見られます。
例えばの話ですが、バルプロ酸が初めて処方された患者さんに対して、薬剤師が「今日はてんかんのお薬が出ていますね」と切り出したところ、患者さんから「てんかん…?今日は片頭痛で受診したんですけど?」と返答がくる可能性があります。
患者さんにしてみれば、「間違った薬が処方されているのでは?」と不安を与えてしまう原因になってしまいます。
このような事態を起こさないためにも、バルプロ酸=抗てんかん薬と思い込まないよう、注意しましょう。
冬に活躍するα-トコフェロール
続いて紹介するのは、α-トコフェロールです。
ビタミンEの1種であり、中性脂肪(トリグリセリド)の生成を抑えることで中性脂肪を低下させる働きがあります。
これにニコチン酸を加えたトコフェロールニコチン酸エステルカプセルという薬が販売されており、上記の効果を期待して中性脂肪が高い患者さんに使われることがあります。
ただし、この薬にもそれ以外に使われることがあります。特に冬の寒い時期に処方された場合は要注意です。なぜなら、霜焼け(凍瘡)の改善を目的に処方されることがあるからです。
α-トコフェロールには末梢血管を拡張し血行促進する作用があるので、この働きによって霜焼けの改善が期待されます。
先ほどのバルプロ酸と同じく、α-トコフェロール=中性脂肪低下と思い込んでいると、実際には霜焼けに対して処方されているのに、「中性脂肪を下げるお薬が出ています」などと説明してしまいかねません。これは避けなければいけません。
どうすれば未然に防げるか
今回はバルプロ酸とα-トコフェロールのギャップについて紹介しましたが、これ以外にも全く違う目的で使われる薬はたくさんあります。
基本的に、処方箋に記載されているのは薬品名・用法・用量ぐらいで、病名は書かれていません。
この情報だけで判断するのは非常に難しいことです。
トラブルを回避するために、まずは「確認させていただきたいのですが、今日はどういった症状で病院におかかりになったのでしょうか?」という前置きから話を始めてみましょう。
先入観にとらわれると、物事を正しく判断出来なくなる恐れがあります。思い切って先入観を捨てて思考することを大切にしてください。
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