早いもので、今年も6月ですね。6月というと衣替えで気温も上がる時期で、更に梅雨入りして天気もグズつきやすい時期ですので、皆さんも体調を崩さないように気を付けましょう。
さて、今月のあすかコラムは「お薬の用法」についてお話ししていこうと思います。
1. はじめに
薬物動態学の授業等でも、お薬をより安全・効率的に服用するために、服用時点が重要であることは学んでいらっしゃるかと思います。
お薬によってはその目的に応じて飲み方が変わることもありますので、ここで挙げるのはほんの一例に過ぎませんが、いくつか紹介していきたいと思います。
2. 食後に飲む理由
お薬の多くは食後に服用する指示が多いため、特に触れなければ患者さんも「食後に飲むもの」というイメージでいらっしゃることが多くあります。そのようなイメージがあるからこそ、飲み忘れずにしっかりと飲んでほしいために、食後の指示で処方されることが多くあります。
もちろんそれ以外に、安全・効果的という理由で食後に飲んでもらいたい理由もあります。例えば痛み止めのお薬は、痛みを引き起こす原因となるプロスタグランジンという物質が作られるのを抑えるのですが、このプロスタグランジンは胃粘膜を保護する働きもあるため、結果として胃腸を荒らしてしまうことがあります。なので胃の中に食物がまだ残っている食後に服用することが、胃を保護することに繋がります。
また、中には食事の脂によって吸収が高まるため、食後(食直後)に服用していただくというお薬もあります。
3. 食前に飲む理由
食前とは、食事のおよそ20〜30分前に服用することを指します。お薬の中には、食事と接触しないことで吸収が妨げられなかったり、強酸性下で溶解が促進されたりするメリットがあります。漢方薬も、以前のコラム(2022年1月号)で①吸収を高める、②副作用を軽減するという目的で、空腹時(食前又は食間)に服用するということも触れました。
ただ食前という指示ではなく、「食直前」という用法もあります。例えば糖尿病治療薬の中には、インスリンの分泌を促進したり、糖質の分解・吸収を遅らせたりすることで血糖値上昇を抑えるお薬があります。これにはお薬の効果を最大限発揮することと、万が一服用した後に食事を摂れなくなった時の低血糖を回避するという狙いもあります。
3. 食間に飲む理由
食間とは、食後およそ2時間後に服用することを指します。たまに「食事の最中に服用すること」と勘違いされる患者さんがいらっしゃるので、初めて食間の用法でお薬が処方された患者さんには、飲み方について注意しなければいけません。
B型肝炎治療薬のエンテカビルというお薬は、食事の影響で吸収が低下してしまうので、この食間で服用するよう決められています。
4. その他にも用法は様々
その他にも起床時に服用するお薬に、骨粗鬆症治療薬のビスホスホネート製剤というものがあります。このビスホスホネート製剤は食事により吸収が妨げられてしまったり、食道に留まって消化器荒らしたりしないように、① 起床時コップ1杯(180mL程度)の水で服用し、② 服用後30分は横にならず、③ 水以外の飲食、他剤の服用を避ける、と服用方法が細かく指示されています。
また、効果があらわれる時間や副作用を避けることを目的に寝る前に服用するお薬も多くありますが、人によっては副作用という面をあえて利用する飲み方もあります。例えば眠気の出やすい抗アレルギー薬を、鼻水・痒みを鎮めるとともにゆっくり休むことが出来るよう、寝る前に飲んでいただくということもあります。
その他にも血中濃度を維持するため、○○時間おきとか、毎日○○時と指示されることもあります。決められた時間に服用するのが大変なこともあるかもしれませんが、その目的を丁寧に説明・理解していただくことが患者さんのためでもありますので、医師の狙いを汲み取れるよう学んでいきましょう。
5. おわりに
医師は患者さんの症状に合わせて様々なお薬を処方します。そのお薬を何のために飲むのか「薬効」を伝えることも大切ですが、お薬ごとにどのような「用法」で飲んでもらうのかも変わってきます。先生の意図する効果を発揮するため、かつ、患者さんに安心・安全に服用していただくために、そうした服用方法についてもしっかり説明出来るよう勉強に励んでいきましょう。
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